令和3年 第24回交通事故・調査分析研究発表会
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令和3年 第24回交通事故・調査分析研究発表会
加齢により低下する運転能力や不安全行動による高齢運転者の交通事故リスクが懸念されている。交通事故は、不安全行動を防ぎ、適切な安全運転の支援によって予防が可能である。そのためには、高齢運転者の不安全行動の傾向は何か、それらの不安全行動を防ぐには “教育・訓練” “技術支援”など,どのような対応が適切なのかについて、体系的な整理が必要である。
本報告では、約5,400名の高齢者講習の受講者が、実車で“危険”“要注意”と観察・評価された様々な不安全行動のデータを用いて、それらを集約し不安全行動の傾向を分析し、①定着した不安全な運転スタイル、②交通環境への適応技能の衰え、③車両操作を支える心身機能の低下、の行動形成の背景を踏まえ、高齢運転者の安全運転の支援を提言する。
研究部 特別研究員 小菅 英恵
シートベルトは自動車乗員の死亡防止に最も効果がある対策であり、法令による着用義務化後シートベルト着用率は上昇し、2020年には99%(運転席、一般道路)となったが、依然、1%の運転者は非着用であり、第11次交通安全基本計画の目標達成には、シートベルト着用率の向上は不可欠と考えられる。
そこで、シートベルト着用率向上策の検討資料を得るために、交通事故総合分析センターの交通事故・車両統合データベース及び違反事故履歴統合データベースを使い、シートベルト非着用に関する分析を行った。その結果、シートベルト非着用は若者や高齢者に多いこと、シートベルト非着用での検挙者は、他の交通違反種別とは異なる特徴を持ち、事故率が高いこと等が明らかとなった。
研究部 特別研究員 西田 泰
歩行者の事故や傷害低減のため、車の衝突安全性能向上や予防安全システム導入が進められている。今回の分析では、車をフルモデルチェンジ年でグルーピングし、車の進化が歩行者事故を低減している状況を明らかにした。一方、歩行者と共に運転者の高齢化も進んでおり、歩行者の死亡重傷事故は、中高速域での減少に比べて20km/h以下の低速域での減少の程度が小さいことや、75歳以上の高齢運転者による操作エラーの比率が高いことなどを明らかにし、低速域での加害部位と傷害部位について分析を行った。今後の課題は、低速事故回避と高齢運転者のサポートシステムの拡充、低速での重傷発生メカニズムの解明とさらなる対策可否の研究である。
研究部 主任研究員 河口 健二
令和2年の当事者種別ごとの死亡重傷者数は、歩行者の事故が最多となっている。このうち、車両右折時の横断歩道横断中の割合が最も高く、今後の事故対策が強く望まれる。
そこで、本研究ではマクロデータを用いて車両右折時の横断歩道横断中の事故の特徴を把握し、AEB (衝突被害軽減ブレーキ)による対策が有効と考え、ミクロデータを用いて各事故状況を再現し、右折事故防止に要求されるAEBの歩行者検知角度を特定した。併せて、検討の中で明らかとなった今後の課題について整理した。
研究部 研究員 西山 直毅
当センターが2003年に実施した研究では、車両横転を伴う事故では乗員傷害が重傷化する傾向が明らかになっている。 しかし、車種構成の変化や安全装備の普及、高齢化の進展といった環境変化により、当時とは状況が異なっている可能性がある。そこで今回、最新のミクロデータを用いて横転事故の分析を行ない、過去の研究と比較した。結果、横転事故の発生率は増加しており、単独事故よりも車両相互事故でその傾向が顕著であった。その主要因は、①車種構成の変化(ミニバンや車高の高い軽自動車の増加)②横滑り防止装置(ESC)の装着義務化③高齢運転者の増加と推定された。
東京交通事故調査事務所 調査員 小林 弘樹
自動運転車事故調査における交通事故総合分析センターの取組みの紹介
令和2年に「改正道路交通法」及び「改正道路運送車両法」が施行され、公道上において自動運転車の走行が可能となった。これに合わせて、自動運転車に係る交通事故の原因を究明し同種の事故の再発防止及び被害軽減を図ることを目的に、当センターにおいて自動運転車の事故調査を行うことになった。自動運転車は、自動運転のシステムが運転を行う場面があることから、もし事故が起こった場合には、従来の事故調査に加えて、新たな調査・分析・研究が必要になる。ここでは、自動運転車の事故調査における当センターの取り組みについて、自動運転車の特徴を踏まえた情報収集及び分析の方法と、新たな調査手法の検討結果について紹介する。
自動運転グループ 特別研究員 松村 英樹