no33    

人はどんなミスをして交通事故を起こすのか
          〜キーワードは”思い込み”〜


目  次

 はじめに
 1.事故調査事例にみる人々のミスの特徴
  1.1 認知ミス −”ぼんやり”、”思い込み”が主要因−
  1.2 判断・予測ミス −”思い込み”が主要因−
  1.3 操作ミス −”慌て、パニック”、"思い込み”が主要因−
 2.事故事例の紹介
 おわりに



はじめに


  交通事故の死者・重傷者数は、各種の被害軽減対策の効果により減少傾向にあります。一方、軽傷事故が大部分を占める全事故件数は、依然として増加の一途をたどっています。今後、事故件数の低減のためには、事故の発生そのものを抑える必要があり、言い換えますと、予防安全の観点からの分析、対策が重要になってくると考えています。今回は、'97年の300件の事故調査事例を用い、交通事故にみられるミスの特徴を分析しましたので、その概要を紹介します。


1 事故調査事例にみる人々のミスの特徴

一般的に、運転者は「認知」、「判断」、「操作」という手順を踏んで自動車を安全に運転しているわけです。

認知とは、運転者にとっての周囲の交通状況における異常や危険を見つけ、認識することであり、判断とは、認知した結果に対してどのような行動をとればよいのか決定することです。そしてその判断に従って運転操作を実行することを操作と呼ぶのが一般的です。しかしながら、ここでは、交差点には現時点で危険は見られないが、曲がり角から人などが飛び出してくるかもしれない、といういわゆる防衛運転をするための予測も上記分類の「判断」の中に入れ、「判断・予測」として取り扱うことにしました。
 そして、事故に関与した当事者を"当事者A"、その際の衝突相手を"当事者B"と呼ぶことにします。言い換えますと、車両単独事故以外の事故は全てなんらかの衝突相手(歩行者、自転車も含む)がいるということになります。たとえば、'97年の事故件数は300件であり、そのうち75件が車両単独事故なので、当事者Aは300人、当事者Bは225人ということになります。
 図1は、300人の当事者Aと225人の当事者Bのうち、何らかのミスがあった人の割合を示しています。当事者Aはほぼ全員の298人が、当事者Bは約87%の196人がミスを犯しているのが分かります。当事者Aについては認知段階でのミス(見落とし)が一番多く、事故を防ぐには、まず危険の兆候の認知(発見)能力を向上させるのが有効であることを示しています。
当事者Bは当事者Aと異なり、判断・予測ミスの割合の方が、認知ミスよりも高いという結果になっています。すなわち当事者Bは状況を正しく判断・予測すること、言い換えますと、より安全を確保できるような運転をするように判断・予測する、いわゆる"防衛運転"に心がけることがより重要と考えられます。

また、各ミスはそれぞれ単独で起きるのではなく、図2および図3に示すように、大部分の事故では認知ミスと同時に、判断・予測、操作段階でもミスが存在していることがわかります。参考までに事故に遭った当事者が一人当たりどれくらいの数のミスを犯しているのかを図4に示してあります。当事者Aでは一人当たり約3件、当事者Bでは一人当たり約2件ということがわかります。つまり、事故を回避できる機会が当事者Aで約3回、当事者Bで約2回あったことになります。



図2 ミスの重複状況(当事者A)
   

図3 ミスの重複状況(当事者B)


図4 一人あたりのミスの件数
   

注1 「当方」から見た交差点対向直進車の定義

1.1 認知ミス −"ぼんやり"、"思い込み"が主要因−

 図5に当事者Aが認知ミスした対象と、認知ミスした要因をまとめました。認知ミスした対象で一番多いのは"交差直進者"注1、すなわち交差点で横の道にいる車両または人の見落としで、出会い頭事故につながるミスであることがわかると思います。二番目に多い"対向直進者"注1は右直事故(右折車両と対向直進車両の事故)につながるミスといえます。ミスを犯すに至った要因としては、"ぼんやり"、"思い込み"が全対象に共通して多く、「見ようと思えば見えていたのに見なかった」ミスです。"思い込み"による認知ミスというのは、例えば、「交差する道には一時停止標識があり、いつも相手の車が一時停止する」のを知っていたり、「交通量の少ない道で、めったに車がやって来ない」のを知っていたりして、安全を確認しないような場合です。それに次いで建物や樹木の陰等のために見えなかったり、雨や霧のために見えなかったり、という"見通し不良"が多く、「見ようと思っても見えなかった」ミスということができます。ミスを犯すに至った特異な要因としての"居眠り"、"飲酒"は、主に"車線はみだし"の主な要因となっており、車両単独事故、正面衝突という重大な事故につながりますので、特に注意したいものです。
 図6に当事者Bの認知ミスの状況を載せてありますが、やはり"交差直進者"が圧倒的に多数を占めており、出会い頭事故の多さを裏付けています。当事者Bでのミスを犯すに至った要因もやはり"思い込み"と"見通し不良"が大半を占めています。



図5 認知ミスと、ミスの原因(当事者A)





図6 認知ミスと、ミスの要因(当事者B)


1.2 判断・予測ミス −"思い込み"が主要因−

次に、判断・予測ミスおよびミスを犯すに至った要因について考えたいと思います。

  図7に、当事者Aについての主な物をまとめた結果を示します。一番多い判断・予測ミスは、せっかく"交差点"を認知したにもかかわらず、相手は見えないので"交差道路には誰もいないだろう"というもので、これも出会い頭事故につながるミスです。図5をもう一度見ていただきたいと思います。"交差直進者"を見落とすことは多いけれど、"交差点"そのものを見落とすことは少ないことがわかります。"交差点"を認知した時点で"交差道路には誰もいないだろう"ではなく、"交差道路には誰かいるかもしれない"という安全指向の判断・予測、いわゆる防衛運転に心がけることにより、"交差直進者"に対する認知ミスを挽回できる可能性が少なくないということです。
重要なことは、要因は何であれ、あるものを認知ミスしても、別の対象を見て「認知できなかった対象」の存在を予測する習慣、能力が必要であるということだと思います。車両単独事故につながる、"自車の速度は問題なし"も同じくらいの多さでみられ、いずれも自分に都合の良い判断・予測をしている状況がうかがえます。




図7 判断・予測ミスの内容と、その要因(当事者A)

ミスを犯すに至った要因は、一様に"思い込み"が多く、全体の60%を占めています。例えば、「自分の方の道が優先道路だから相手は出てこない」とか、「自分の方の信号が青だから相手は出てこない」のように思い込んだりする場合です。
 一方、図8に見られるように、当事者Bで多い判断・予測ミスは、"交差点"を見たときの"自分の進路を妨げる者はいないだろう"であり、二番目には"信号"を見たときの"他者の信号無視はないと思った"であります。何れの場合もそのミスを犯すに至った要因は"思い込み"がほとんどです。信号等の規則に従って運転する人ばかりでないという事実を認識したうえで、防衛運転に心がける必要があるということです。とはいっても、当事者Bのミスの要因に関しては、全体の約8%の割合で、"不可抗力"があり、当事者B側ではどうしようもない場合があることも事実です。つまり、この判断・予測ミスにおいても運転者の"思い込み"が重要な要因であることは、認知ミスの場合と同じであり、特筆すべきことではないでしょうか。


図8 判断・予測ミスの内容と、その要因(当事者B)



1.3 操作ミス −"慌て、パニック"、"思い込み"が主要因−

 操作ミスは多くありませんが、参考までに図9に当事者Aの操作ミスとそのミスを犯すに至った要因を示します。ミスのほとんどはハンドル操作ミスであり、そのミスを犯すに至った要因は、多い物から順に、"運転技量不足"、"慌て、パニック"、"飲酒"、"運転操作に対する過信"、"居眠り"となっています。
当事者Bの操作ミスの総数は9件と非常に少ないので図は載せませんが、ミスの主なものとしては"ライト不点灯"が3件、"ハンドル、ブレーキ操作不適当"がそれぞれ2件です。また、そのミスを犯すに至った要因としては、"慌て、パニック"、"思い込み"の順です。  つまり、操作ミスそのものは多くはありませんが、当事者Aによるハンドル操作ミスという運転者自身の要因がほとんどであることも見逃せない事実ではないでしょうか。




図9 操作ミスの内容と、その要因(当事者A)




2 事故事例の紹介

 以下に交差点での出会い頭事故、右直事故の例を紹介します。

【事例1】



図10 見通し良い交差点での”思い込み”による
見落としと判断ミス
 当事者A:  
①約30㎞/hで一時停止標識のある見通しの良い交差点にさしかかる。
②いつも閑散とした道なので、良く確認せず交差点に進入。
  →認知ミス「滅多に車が来ることはない/思い込み」=見えたのに見なかったミス
 当事者B:  
①約50㎞/hで交差点に進入。
②当事者Aを認知したが、一時停止なので止まるだろうと判断。 
  →判断・予測ミス「一時停止なので相手が止まるはず/思い込み」
 「教訓」  
①いつも車が来ないからといって、確認を怠ってはならない。
②一時停止で必ず相手が止まるとは限らない。


【事例2】


    
図11 橋脚の陰になった相手の見通し
 当事者A:  
①信号のある交差点で右折待ちのため、交差点中央付近で停止。
②対向車が来ないようなので右折を開始。
③少し進んだところで、橋脚の向こうから走ってくる当事者Bを発見。
  →認知ミス「視認性不良(橋脚の陰)」=見ても見えなかったミス
 →判断・予測ミス「障害物(橋脚)の陰に車は居ない/あせり」
   「教訓」  
①障害物の陰には人、車が必ず居る。


【事例3】



図12 相手との距離、相手の速度に対する判断ミス
 当事者A:  
①青信号で交差点に進入、右折のため交差点中央付近で待機。
②数台の対向車をやりすごした。
③対向車がとぎれたので、後続の対向車を認知したが、行けると判断。
  →判断・予測ミス「対向車はもっと遠い、遅い/あせり」
 当事者B:  
①前方に当事者Aを認知していたが、当然自分が通り過ぎるまで待つと判断。
  →判断・予測ミス「自分が先に行ける/思い込み」
 「教訓」  
①交差点での右折では、急いでなくても"あせって"判断・予測を間違えやすい。
②交差点通過は減速気味で、間違っても加速はしないこと。


【事例4】


   
  図13 カーブミラーに頼りすぎたことによる相手の見落とし
 当事者A:  
①見通しの悪い一時停止のある交差点で一時停止。
②カーブミラーにて車両の有無を確認しつつ交差点に進入。
③カーブミラーが汚れているため確認に手間取り、右からの車を見落とした。
  →認知ミス「脇見/衝突相手以外のものに注意」=見えたのに見なかったミス
 当事者B:  
①特に何も考えずに交差点に進入。
  →判断・予測ミス「交差道路には誰もいないと思った/ぼんやり」
 「教訓」  
①カーブミラーは常にキレイであるとは限らない。最終的には自分の目での確認が必要。
②特に見通しのわるい交差点では、何が起きるかわからないので徐行が必要。


おわりに


 以下に、人間のミスの特徴と、ミスを防止あるいはミスを重ねないための要点をまとめましたので参考にしていただければ幸いです。

(1)ミスの種類としては、認知段階、判断・予測段階の順に多く、操作段階は少ない。
(2)ミスの数は、当事者一人当たり2〜3件であり、言い換えますと事故を回避できる機会は二度以上あるということです。
(3)“交差直進者”を見落とす場合が多く、その理由は“ぼんやり”といった運転への集中度の低下や、誰も出てくるはずがないという“思い込み”のための確認不十分、次に、家屋、他車の陰、天候不良による“見通し不良”です。すなわち、「見ようと思えば見えたのに見なかった」ミス、「見ようと思っても見えなかった(見通し不良)」ミスの順となります。
(4)一方、“交差点”そのものを見落とすことは少なく、“交差点”を認知した時に“交差道路には誰もいないだろう”ではなく、“交差道路には誰かいるかもしれない”という安全指向の判断・予測、いわゆる防衛運転に心がけることにより、“交差直進者”に対する認知ミスを挽回できたと考えられる事例が少なくありません。
(5)以上のミスを防止するには、
 a.まず運転するときには運転に集中すること
 b.信号や一時停止等のある交差点で、自分が優先であることが明らかであっても、必ず他車の確認をすること
 c.見通しが悪く誰もいないような交差点でも、「誰もいない」と思うのでなく「見えないけれど誰かいるかもしれない」といった防衛運転をすること

などに重点を置いた教育が重要ということだと考えられます。


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