no31    

身近な人が関係する年少者の事故
〜低速域で発生する縁故者事故〜


目  次

 はじめに
 1.縁故者とは
 2.収集データの説明
 3.縁故者事故の特徴
  3.1 縁故者事故の割合
  3.2 縁故者の範囲別事故件数
  3.3 年少者の年齢別発生状況
  3.4 年少者の行動別発生状況
  3.5 運転者の男女別発生状況
  3.6 運転者の行動別発生況
  3.7 車の形状別発生状況
 4.縁故者事故の発生パターン
 5.事故例の紹介
 6.おわりに


はじめに


 昨年、当センターでは全国警察のご協力により事故データを収集し、「低速域における交通弱者の歩行中の事故防止対策に関する調査研究」を行いました。  その中で、事故発生速度が20q/h以下の低速域(以下「低速域」と記す)で発生した9歳以下の年少者(以下「年少者」と記す)の歩行中の死亡事故を見ますと、年少者と身近な関係にある親など、いわゆる「縁故者」との間で発生する事故の多いことが明らかになりました。  そこで今回は「身近な人が関係する年少者の事故」というテーマで、収集したデータを基に事故の特徴や事故例を紹介したいと思います。  年少者の家族や年少者に接する機会の多い人々に事故防止資料として活用していただければ幸いです。


1 縁故者とは

 「故あっての人のつながり」を「縁故」(出典『広辞苑』)と呼んでいます。
 ここでは、「両親」「親族」「親の友人」「親の従業員」「通学通園関係者」など、年少者本人または親や兄弟姉妹を通じて「人のつながり」のある人を「縁故者」と定義し、これらの人がかかわって発生した事故を「縁故者事故」と呼ぶこととします。
縁故者の範囲を示すモデル図は、図1のとおりです。


2 収集データの説明

 約20q/h以下の速度で発生した死亡事故のうち、以下の
条件を満たすものを収集しました。

 @ 「9歳以下の年少者」または「65歳以上の高齢者」の
歩行中の事故で四輪車との間に発生したもの
 A 事故発生の要因として、運転者の安全確認不足
または車両の死角によって発生したもの
 ※なお、事故の発生実態を明らかにするため、事故統計では含まれない
「庭先」や「敷地内」などで発生したものも調査対象としました。
平成10〜12年に発生した事故をとしています。
表1 収集データの件数表


3 縁故者事故の特徴

 ここでは、収集した事故データをもとに「身近な人が関係する低速域での年少者事故」の特徴について説明します。

(1)縁故者事故の割合
 表1の収集データ件数から縁故者事故の発生状況の割合を見ますと、年少者における割合は高齢者に比較して高い値を示しています(図2)。 


図2 縁故者事故の発生比較

(2) 縁故者の範囲別事故件数

表2 縁故者の範囲別発生件数
  縁故者事故において、どのような縁故者が事故を起こしているのか見てみますと、男性では「父親」と「通学通園関係者」、女性では「母親」と「親の友人」が目立っています(表2)。










(3) 年少者の年齢別発生件数

 年少者事故の収集データから年齢別の発生状況を見てみますと、全事故に比べて縁故者事故では、1歳および2歳児の事故が多くなっています(図3)。


図3 年少者の年齢層別発生状況

(4) 年少者の行動別発生件数

 年少者の行動別に発生状況を見てみますと、縁故者事故では「立ち止まり」の事故が多くなっています(図4)。
※「立ち止まり」とは、遊戯目的以外で立っている状態をいいます。


図4 事故類型別発生状況

(5) 運転者の男女別発生状況

 運転者の性別による事故件数を全事故と比べてみますと、縁故者事故では「女性運転者」の事故の割合が多くなっていることがわかります(図5)。


図5 運転者の性別発生状況

(6) 運転者の行動別発生状況

 運転者の行動別に発生状況を見てみますと、縁故者事故では「発進」、「後退」および「左折」時に発生しています。その中でも「発進」時における縁故者事故が特に多くなっていることが特徴といえます(図6)。


図6 行動類型別発生状況

(7) 車の形状別発生状況

 車の形状別に事故の発生状況を見てみますと、縁故者事故では「1BOX」による事故件数が特に多くなっています(図7)。
 また、運転者の年齢別に縁故者事故件数を見てみますと、20〜30歳代の女性運転者による事故が目立ち、特に「1BOX」乗車中による事故が7例中5例を占めています。このほか、男性の通学通園関係者による事故は、50〜60歳代の運転する「マイクロバス」や「バス」といった送迎車両で発生していることがわかります(表3)。


図7 車両形状別発生状況

表3 縁故者の年齢層別・車の形状別発生件数

注:SUVは、事故統計上の車両形状が「セダン」のうち車高が165cmを超えるものと定義する。小・中型トラックは、事故統計上の車両形状が「1BOX」「ライトバン」以外の貨物車に該当し、車両総重量が3t以上5t以下のものと定義する。このほかの車両は、事故統計上の車両形状とする。


4 縁故者事故の発生パターン

運転者の側から見て、どうして事故が起きたのかを明らかにするため、以下の4項目について縁故者事故を起こした18件の調査を行いました。
 @ 運転者が、事前に年少者のいることを認識していたか
 A 事故が発生するまでに年少者を発見することが可能であったか
 B 運転者は安全確認をどのような方法で実施したか
 C どうして事故が発生したか
 その結果、最も多い発生パターンは、「年少者の存在を認識しないまま、発見可能であるのに、安全確認をせず、いないと思って」事故につながったというものです(表4)。

表4 縁故者事故の発生パターン







5 事故例の紹介

@ 父親による後退事故  (発生速度 約10q/h)
父親(27歳)はセダン型乗用車を道路左側に停止させ、助手席に同乗していた娘(3歳)を抱きかかえて運転席側から外に降ろした後、運転席のドアを開けたまま安全確認をせずに後退したため、開けたままのドアに倒された娘をひいた。


A 幼稚園バス運転者による発進事故  (発生速度 約5q/h)
幼稚園のマイクロバス運転者(男性:57歳)は、園児を乗せて発進する際、母親等の送迎者に気をとられ、道路の右側にいた年少者(男子:2歳)が兄の乗ったバスに近づいてきたことに気づかず、年少者をひいた。


B 小学校のスクールバス運転者による後退事故  (発生速度 約10q/h)
小学校の大型スクールバス運転者(男性:60歳)は、小学校校庭内で下校児童を乗せる目的で方向転換しようと後退したが、モニターテレビ等で後方の安全確認をしなかったため、左後方に立ち止まっていた年少者(男子:8歳)をひいた。


C 父親による発進事故  (発生速度 約10q/h)
父親(28歳)は、自宅車庫内の車で、1BOX型乗用車を発進する際、娘(1歳)が車の右後部付近にいたことに気づかずにひいた。


D 母親による後退事故  (発生速度 約5q/h)
母親(29歳)は、セダン型乗用車に同乗していた息子(1歳)を車から降ろした後、車庫に車を入れようと、安全確認をしないまま後退したため、車の左後部付近に近づいた息子に気づかずにひいた。


E 母親の友人による発進事故  (発生速度 約5〜10q/h)
母親の友人(女性:32歳)はSUV系の乗用車で母親宅を訪問し、路上で母親と立ち話をしていた。前方から車が来たので、自分の車を移動しようとしたが、前方の安全確認をせず慌てて発進したため、自分の車の左前部に立ち止まっていた母親の息子(2歳)をひいた。


F 母親による後退事故  (発生速度 約5q/h)
母親(29歳)は、祖母宅に預けていた娘(1歳)を迎えに行き、1BOX型乗用車を後退しながら祖母宅の玄関に横付けしようとした。エンジン音を聞きつけた娘が祖母宅の玄関から出てきたのに母親が気づかず、車の左後部にいた娘をひいた。


G 従業員による発進事故  (発生速度 約5q/h)
女性従業員(41歳)は、停車している自分の車の左後方に経営者の息子(1歳)がいることを事前に認識していた。従業員は1BOX型貨物自動車の運転席で伝票等に目を通した後、経営者の息子が車の右前部に移動したことに気づかず、車を車庫に入れるために発進させため、経営者の息子をひいた。


H 父親による発進事故  (発生速度 約10q/h)
娘(5歳)とともに買い物を終えた父親(28歳)はSUV系乗用車に乗り込んだ。娘もすでに乗っているものと思い込んだ父親が車を発進させたため、車に乗り込もうと左後方にいた娘をひいた。


I 保育園送迎者による発進事故  (発生速度 約5q/h)
年少者(女子:1歳)は、母親の車で姉とともに保育園に登園し、降車後、先に行った母親と姉の後を追った。一方、女性(26歳)は同じ保育園に子供を送り、帰宅のため1BOX型乗用車を発進させたが、駐車場からの後退車両に気をとられたため、車の右前にいた年少者を発見できずひいた。


おわりに


縁故者事故は、「発進」、「後退」といった停止中の車が動き出す時に発生しているのが最大の特徴です。したがって、運転者の方は、車に乗る前に車の周囲を見渡して年少者がいないことを確認するとともに、発進させる前に安全確認を確実に行うことが、最も重要な事故防止対策であるといえます。
 また、保護者の方は、「年少者は知っている人に近づく」ということをよく理解して、年少者を常に自分の視野に入れておくことが大切です。加えて、年少者と接する機会の多い通園通学に従事する運転者や友人の方などにも、こうした事故の実態をよく認識していただければと思います。
 年少者事故は、お子さんの将来を楽しみされている家族の方々に深い悲しみを与えることとは当然ですが、縁故者事故では、さらに今まで培ってきた夫婦間や友人間等の人間関係にも亀裂を生じ、将来に渡って深い溝を作ります。どうか、こういった事故をなくすためにも、普段から年少者に対する気遣いと安全確認をお願いする次第です。








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