イタルダ・インフォメーション
2000 No.29
SRSエアバックとシートベルト

目 次
はじめに
1.交通事故統合データを用いたエアバックの効果評価
1.1 分析対象とした車両の条件
1.2 運転者の人身損傷程度の比較
1.3 前席同乗者の人身損傷程度の比較
2.事故例を用いたエアバックの効果評価 〜衝突の厳しさと傷害について〜
3.事故例紹介
3−1 事例1:エアバックが装備されていない車の場合
3−2 事例2:エアバックが展開した車の場合
3−3 事故例に関する補足
おわりに
はじめに
SRSエアバッグ(Supplemental Restraint System Airbag)は、衝突時にシートベルトを補助して乗員を拘束し、乗員が受ける衝撃を緩和する装置であり、特に運転席SRSエアバッグは最近の乗用車の多くに装備されるようになっている。
しかしながら、残念なことにSRSエアバッグ装置を装備した車でもシートベルトを着用せずに乗車している人がたくさんいる。
SRSエアバッグ(以下、エアバッグという。)を装備した車で、シートベルトを着用していれば、乗員の傷害が緩和されることがわかったので、交通事故統合データと事故例を用いて以下に紹介する。
1.交通事故統合データを用いたエアバッグの効果評価
1-1 分析対象とした車両の条件
ここでは、エアバッグを装備した車とそうでない車の区分を工場から出荷された状態で判断した。それぞれの車をAB装備車、AB非装備と名付ける。
工場出荷区分
・AB装備車:エアバッグが標準で装備された車
・AB非装備:エアバッグの装備がなく出荷された車
(車の中には、エアバッグ装備がオプション設定になっているなど、AB装備車あるいはAB非装備いずれにも区分することができない車があり、このような車は分析対象から外した。)
AB装備車とAB非装備について、ベルト着用乗員の傷害を比較した。できるだけ同等の条件で比較すること、エアバッグが作動する条件での衝突であること、かつデータ数が確保されること等を考慮して、分析対象車を以下のように選定した。
・1989年以降のセダン型乗用車
・衝突部位:車両の正面のみ(図1の@)
・衝突相手:普通乗用車
・1995〜1998年の交通事故で1当あるいは2当として関与した車
1-2 運転者の人身損傷程度の比較
事故に関与した運転者に占める死者と重傷者の構成率を死亡重傷率として比較した。
車に作用する衝撃程度をそろえるために、損壊程度を中破以上(広範囲にわたる板金修理を必要とする程度等以上の損壊を受けた場合)の場合と事故に関与した全ての場合で別々に分析を行った。
事故に関与したベルト着用運転者は4年間の合計で234,444人であり、そのうちAB非装備の車は20,825人、AB装備車は26,602人であった。
AB装備車の死亡重傷率は、AB非装備に比べて低くなっており、中破以上の場合で死亡重傷率は約25%低減し、事故に関与した全ての車では約26%低減している(図2)。
図2 ベルト着用運転者の死亡重傷率比較
からだを頭顔部、頸部、胸腹部、背腰部、腕部、脚部の6部位に区分し、人身損傷主部位(損傷程度が最も重い部位、死亡の場合は致命傷の部位をいう。)の構成率を図3に比較した。AB装備車の頭顔部の構成率がAB非装備に比べて約25%低くなっていることがわかる。

図3 ベルト着用運転者の人身損傷部位構成率の比較
1-3 前席同乗者の人身損傷程度の比較
前席同乗者について同様の分析を行った。なお、前席同乗者の場合は傷を受けた乗員のみが対象となるため、死亡重傷率は運転者の場合に比べて高くなる。
ベルト着用前席同乗者は、4年合計で8,892人であり、そのうちAB非装備の車では4,726人、AB装備車では451人であった。
体格差を統一する上で16歳以上の前席同乗者を対象として、死亡重傷率を比較した。
中破以上の場合あるいは事故に関与した全ての場合でAB装備車の死亡重傷率は、AB非装備の車よりも低くなっており、中破以上の場合と全ての場合で低減している。(図4)
図4 ベルト着用前席同乗者の死亡重傷率比較
2.事故例を用いたエアバッグの効果評価 〜 衝突の厳しさと傷害について 〜
普通乗用車のエアバッグが展開した車両相互事故を調査し分析した。車両の前面に衝撃を受け、その衝撃方向が11時から1時の範囲にある車(図5)におけるベルト着用の運転者について傷害程度を比較した。デルタV(△V)とMAIS(最大傷害程度)との相関をベルト着用有無別に示す。△Vは、衝突前後の速度差で乗員に作用する衝撃程度を評価する一つの尺度であり(図6)、MAIS(Maximum Abbreviated Injury Scale)は乗員が受けた最も厳しいAISの傷害程度(図7)を表す。
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| 図5 衝撃部位と衝撃方向(事故例調査) |
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| 図7 傷害レベル(AIS)について |
調査した事故の中で、△VやMAISが不明の車を除くとエアバッグを装備しない車については、12例であり、△Vが約55km/hでMAIS 5の事例、約80km/hでMAIS 6の事例があることがわかる(図8)。一方、エアバッグが展開した車は、41例であり、△Vが80km/hに至るまでMAIS 3の傷害であった(図9)。
図中の白塗りの丸は頭顔部傷害がない場合、黒塗りの丸は頭顔部傷害がある場合である。エアバッグを装備しない車では、頭顔部に傷害を有する運転者は5人と全体の約40%であるが、エアバッグ展開の車では8人と全体の約20%であった。
次に、全ての傷害に着目して傷害部位の構成率を見ると、図10に見るように頭顔部の構成率はエアバッグ展開の車の方が低い。△Vが40km/h超の場合では、図11に見るようにエアバッグ展開の車の方が頭顔部傷害の構成率が一層低くなっている。
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図8 ベルト着用運転者のMAISと凾uとの関係 −エアバックの装備なし− |
図9 ベルト着用運転者のMAISと凾uとの関係 −エアバックが展開した車− |
このように、エアバッグ展開の車において頭顔部に傷害を有する受傷者の割合は低い。このことがAB装備車の死亡重傷率がAB非装備に比べて低くなっていることに関係していると考えられる。
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図10 傷害部位別構成率の比較 |
図11 傷害部位別構成率の比較 儼>40km/hの場合 |
3.事故例紹介
エアバッグを装備した車とエアバッグ装備のない車に関する事故例を比較する。
3-1 事例1:エアバッグが装備されていない車の場合
28歳女性の運転するB車は、駐車場から出てくる車を避けようと対向車線にはみ出してきたA車と正面衝突した。B車運転者は、直前に気づきブレーキ操作やハンドル操作で回避を試みたが衝突し、B車はA車に約10mほど押し戻され停止した。
B車には△Vで約55km/hの衝撃が作用したものと推定される。運転者は、意識消失(AIS 5)等の傷害を受け全治約30日間と重傷であった。運転者はベルト着用であったものの、エアバッグは装備されていなかった。運転者は、写真2にみるステアリングボス部に頭部を接触しており、AIS 5の傷害を受けた。
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図12 事故概要図:事故例1 |
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写真1 B車の車室内状況 |
3-2 事例2:エアバッグが展開した車の場合
約50km/hの速度で走行していた24歳女性の運転するB車は、対向車線を走行してきたA車と正面衝突した。A車は約60〜100km/hで走行しており、B車はA車に押し戻され、左後部をガードパイプに乗り上げ、その弾みで右に横転し、衝突位置から25m以上押し戻されて停止した。
B車には、△Vで約80km/hの衝撃が作用したものと推定される。運転者は、肋骨骨折を伴う肺気胸(AIS 3)や大腿骨骨折(AIS 3)等の傷害を受け、全治約6ヶ月間と重傷であった。運転者は、ベルト着用であり、衝突によりエアバッグが展開した。図9に見るように車体部品が車室内に侵入しており、胸部、脚部に多くの傷害を受けた。しかしながら、頭顔部には重大な傷害は見られなかった。これは、エアバッグが関係していると考えられる。
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図13 事故概要図:事例2 |
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写真2 B車の車室内状況 |
3-3 事故例に関する補足
紹介を行わなかったが、エアバッグが展開しても重大な傷害を受けた事例がある。

おわりに
車両の前面に衝撃を受けた普通乗用車におけるベルト着用運転者ついて、エアバッグを装備した車とエアバッグ装備がない車とで運転者の傷害程度を比較すると、エアバッグを装備した車における死亡あるいは重傷者が占める構成率が低くなることが分かった。
事故例分析でも、エアバッグが展開した車において頭や顔に傷害を受ける割合は低くなっており、エアバッグによる傷害軽減効果を確認することができた。
したがって、シートベルトを着用した運転者については、エアバッグを装備し、衝突したときにエアバックが展開すれば、傷害軽減効果が現れるものと判断される
なお、前席同乗者に関しても、運転者同様、シートベルトを着用していれば、エアバッグを装備した車で、傷害軽減効果が現れる可能性があることが交通事故統計データ分析でわかった。
残念ながら、エアバッグを装備した車で、ベルト非着用の乗員を多く見受ける。ベルトを着用していれば重大な傷害を受けるに至らない程度の衝撃でも非着用のために重大な傷害を受けている例がみられ、エアバッグが装備されていてもベルトは必ず着用すべきである。

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