イタルダ・インフォメーション
2000 No.27


後席シートベルト
後席乗員のシートベルト非着用が前席乗員に及ぼす影響


目  次

 はじめに
 1.交通事故統合データから見たシートベルト非着用後席乗員の前席乗員への影響
  1.1 データの抽出条件
  1.2 前席乗員傷害の分析
 2.事故例データ分析から見たシートベルト非着用後席乗員の前席乗員への影響
  2.1 事故例データ分析結果
  2.2 具体的事故例
    ◆事例a  ◆事例b  ◆事例c  ◆事例d
 まとめ


はじめに


 1985年の道路交通法の一部改正により、一般道路を含むすべての道路において、運転者及び助手席同乗者へのシートベルトの着用が義務化され、その他の同乗者についてはシートベルトの着用が努力義務となりました。  シートベルトを着用することによる効果は、図1に示す様に"衝突時の衝撃吸収"と"衝突時の姿勢保持"が挙げられます。この"衝突時の姿勢保持"は、"自分自身の保護"と"同乗者への危害防止"からなる"車室内移動防止"と、"車外放出の防止"に分けられます。  これらの内でシートベルト着用に伴う"自分自身の保護"及び"車外放出の防止"については様々な機会に報告されていますが。後席乗員が前席乗員に及ぼす"同乗者への危害防止"に関しては従来それほど着目されていませんでした。今回、この点に注目し、交通事故統合データから、後席の乗員がシートベルトを装着していないために、前席乗員の傷害に影響が及んだと思われる事故を調査し、その影響について分析しました。また、事故例等を紹介し、後席乗員のシートベルト着用の有効性についても分析しました。


1 交通事故統合データから見たシートベルト非着用後席乗員の前席乗員への影響

 交通事故統合データを用いた後席乗員のシートベルト着用有無と、前席乗員の傷害の関係を分析した結果を以下に示します。

1.1 データの抽出条件

 車両の衝突において、後席乗員が前席乗員に影響を及ぼす状況としては、図2に示す様に、前面衝突において、後席乗員が車両前方に移動し、前席同乗者に直接的に、あるいは間接的に接触する場合や、出会い頭事故を含む側面衝突において、後席乗員が斜め前方に移動し前席同乗者に接触する可能性もあります。これらを考慮に入れて平成7年から平成11年までの5年間の交通事故統合データの中から、以下全ての条件に合致したデータを抽出しました。

  1. 同乗者全てが傷害を受けた車両
  2. 乗車比率の高い2名乗車、3名乗車、4名乗車の車両
  3. 前席乗員への衝撃の影響を考慮し2列席で構成されるセダン、ワゴンの乗用車(軽は除く)
  4. 衝突形態は車両相互事故
 但し、交通事故統合データを用いて分析する場合には、以下の制約が伴います。

1.2 前席乗員傷害の分析結果

 表1、図3に後席乗員のシートベルト着用有無と運転者の着用有無別に運転者の傷害受傷程度を示します。また、表2、図4に後席乗員のシートベルト着用有無と前席同乗者の着用有無別に、前席同乗者の傷害受傷程度を示します。 表1、図3、表2、図4より、前面衝突、側面衝突ともに、後席乗員がシートベルト非着用の方が、着用に比べ運転者及び前席同乗者の死亡重傷率が高くなっていることが判ります。(後面衝突のデータは参考として掲載しました)

ここで表及び図中で示している"死亡重傷率"は下記の様に定義しました。

(式中では"台数"と記してありますが、実際にはこれらの数字は運転者及び前席同乗者数と置き換えられるので、一般に使用している"死亡重傷率"と同義です。)

2 事故例データ分析から見たシートベルト非着用後席乗員の前席乗員への影響

交通事故統合データの分析結果に対し、事故例調査の傾向を調べる目的で、事故例データの分析を実施しました。

2.1 事故例データ分析結果

 表3に平成7年から平成11年までの5年間分の事故例データの中から、データ数が多い前面衝突に的を絞り、衝突時に後席に同乗者がいて前席シートバックに後席同乗者が衝突した痕跡(衝突痕又は変形)が残っていた事故のデータを抽出し分析した結果を示します。該当する事故データは37件(運転者と前席同乗者での重複11件を含む)でした。

 表中には後席乗員のシートベルト着用有無と運転者及び前席同乗者の傷害受傷程度との関係を示しました。
 図表より、後席乗員シートベルト非着用の方が、着用より、運転者及び前席同乗者の傷害にある程度影響を及ぼしていると推定できる事故が多いことがわかりました。

2.2 具体的事故例

 以下に、後席乗員がシートベルトを着用していない状態で、前席乗員の傷害にある程度影響を及ぼしていると推定できた4事故事例について、概要を示します。
 事故例の文中で使用しています "バリア換算速度(Vb)"の定義を図5に示しました。

a.後席シートベルト非着用乗員が、前席シートベルト着用乗員(エアバッグ展開)に悪影響を及ぼした事故例(1)

 事故は50歳代女性の運転する普通乗用車Aが、緩やかな右カーブから直線路に変わる部分で、カーブが終わったことに気づかずにそのまま走行し、対向車線を走行してきた40歳代女性の運転する普通乗用車Bと正面衝突した為に発生しました(図6)。
 衝突時の速度はA車が約60km/h、B車が約25km/hと推定されます。  車両の破損状況は、A車が前面右部で最大約50cm変形、バリア換算速度は45km/hです(図7)。
 また、B車は前面右部で最大約52cm変形、バリア換算速度は40km/h です。
 この事故例で後席乗員の影響を受けたのはA車の助手席乗員です。
 A車左後席乗員(30歳代女性)がシートベルト非着用であったため、衝突直後に前方に飛ばされ、前席シートバックに接触しシートバックを前方に変形させました。このため、助手席乗員(60歳代男性)は、シートベルトを着用しエアバックが展開したにも拘わらず、結果として拘束された状態で背後から衝撃が加わることになり、シートベルト及びエアバッグと前傾してきたシートバックに挟まれ、肺挫傷、左血胸、左肋骨骨折など胸部に傷害を受け出血性ショックで死亡しました(図8、図9、図10)。

図10 A車の助手席乗員の傷害受傷状況図

図7 A車の車体変形状況

 

図9 A車の助手席シートバック変形状況


b.後席シートベルト非着用乗員が、前席シートベルト着用乗員(エアバッグ展開)に悪影響を及ぼした事故例(2)

 事故は60歳代男性の運転する普通乗用車Aが対向車線にはみ出し、対向車線を走行してきた20歳代男性の運転する普通ワゴン車Bと正面衝突した為に発生しました(図11)。
 衝突時の速度はA車が約40km/h、B車が約50km/hと推定されます。
 車両の破損状況はA車が前面右部で最大約64cm変形、バリア換算速度は45km/hです(図12)。
 また、B車は前面右部で最大約31cm変形、バリア換算速度は40km/h です。
 この事故例で後席乗員の影響を受けたのはA車の運転者です。
 A車右後席乗員(50歳代女性)がシートベルト非着用であったため、衝突直後に前方に飛ばされ、前席シートバックに接触しシートを前方に変形させました。このため運転者は、シートベルトを着用しエアバッグが展開したにも拘わらず、シートベルトと前傾及び前進してきたシートに挟まれて、小腸窄孔などの傷害を受け重傷となりました。また、この事故例では後席乗員も胸部打撲で死亡しました(図13、図14、図15)。


図11 事故状況図

図15 A車の運転者の傷害受傷状況図

図12 A車の車体変形状況

 

図14 A車の運転席シートバック変形状態


c.後席シートベルト非着用乗員が、前席シートベルト非着用乗員に悪影響を及ぼした事故例

 飲酒した20歳代男性の運転する普通乗用車Aが、直線路を同乗者と会話しながら走行 中、左カーブに気づかずそのまま直進し、対向車線を走行してきた20歳代男性の運転する普通乗用車Bと正面衝突したために発生しました(図16)。
 衝突時の速度はA車が約65km/h、B車が約50km/hと推定されます。
 この事故で後席乗員の影響を受けたのはB車の助手席乗員である。
 車両の破損状況はA車が前面右部で最大約36cm変形、バリア換算速度は55km/hです。
 また、B車は前面右部で最大約85cm変形、バリア換算速度は60km/h です(図17)。
 この事故例では後席乗員の影響を受けたのはB車の助手席乗員です。
 B車左後席乗員(20歳代男性)がシートベルト非着用であったため、衝突直後に前方に飛ばされ、前席シートバックに接触しシートバックを前方に変形させました。このため助手席乗員(20歳代男性)は、下半身がインストルメントパネルとシートバック間に挟まり骨盤部に傷害(右大腿臼蓋骨骨折等)を受けました(図18、図19、図20)。


図16 事故状況図

図20 B車の助手席乗員の傷害受傷状況図

図17 B車の車体変形状況

 

図19 B車の助手席シートバック変形状態


d.後席シートベルト非着用乗員が、前席シートベルト非着用乗員(エアバック展開)に悪影響を及ぼした事故例

 事故は20歳代男性の運転する普通乗用車Aが、S字カーブの出口にある左カーブを曲がり切れず、対向車線を走行してきてブレーキ操作を実施した50歳代男性の運転する普通キャブオーバー型トラックBとオフセット正面衝突した為に発生しました(図21)。
 衝突時の速度はA車が約80km/h、B車が約15km/hと推定されます。
 車両の破損状況は、A車が前面左部で最大約51cm変形、バリア換算速度は55km/hです(図22)。
 また、B車のキャビン前面部が左に大きく変形、バリア換算速度は40km/hです。
 この事故例で後席乗員の影響を受けたのはA車の運転者です。
 A車左後席乗員(20歳代男性)及び右後席乗員(10歳代女性)がシートベルト非着用で、且つシートを後方に約45°倒して乗車していた為、オフセット衝突直後に両後席乗員が右前方に飛ばされ右前席シートバックに接触しシートバックを前方に変形させたことも合わせて、運転者はエアバックが展開したにも拘わらず前方に押され社内の上部構造物と接触し、頭部裂傷を受けました (図23、図24、図25)。


図21 事故状況図

図25 A車の運転者の傷害受傷状況図

図22 A車の車体変形状況

 

図24 A車の運転席シートバック変形状態


まとめ

 交通事故統合データ分析結果からは後席乗員がシートベルト非着用の場合には、着用に比べて運転者に及ぼす影響は大きくなる傾向にあることが分かりました。特に、後面衝突に比べて、前面衝突、側面衝突の場合にその影響が強く現われています。
 また、事故例調査からは後席乗員がシートベルト非着用の場合は、衝突の衝撃で後席乗員が車両前方に飛んできて、前席シートバックを変形させ、前席乗員に胸部圧迫や下半身圧迫等の傷害を及ぼす可能性があることが示されました。
 今後の課題としては、後席乗員のシートベルト着用は、後席乗員自身の傷害低減だけではなく、前席乗員に対する傷害低減に対しても有効であるため、更なる着用の推進を図る必要があると考えられます。また、後席乗員がシートベルトを正しく着用していない為に、後席乗員自身が受傷した事例(後席乗員がショルダーベルトを脇下に通していたために腹部圧迫による出血性ショックで死亡した事故例)もあった為、後席だけとは限りませんが、シートベルトの正しい着用方法も普及させていく必要があると考えられます。加えて、後席やワゴン車等の後部荷室に搭載した荷物が固定されていなかった為に、衝突の衝撃で前方に飛んできて、前席乗員の傷害程度に影響を与えた事故例(図27)も散見されますので、後部の荷物等についても、固縛指導や荷室ネットの設置等の処置を推進していく必要があると考えられます。












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