交通事故の地域間比較
イタルダ・インフォメーションでは、全国の市区町村別の交通事故による死者数とその人口当たり死者数とを報告し、併せて、人口当たりの死者数の順位を紹介しています。今回は、このような従来の視点に加えて、様々な指標をグラフを用いて交通事故の地域間比較(都道府県及び市区町村)を行いました。
表1に、平成 8年の死者数と全事故件数について、多い県、少ない県を示します。「大都市を擁する県」で多く、「大都市を擁しない県」では少なくなっています。図1に死者数を5段階に分類して示します。いわゆる太平洋ベルト地帯と北海道で事故が多い傾向が読みとれます。
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表1 主な県の事故発生状況(平成8年) |
図1 県別の死者数(平成8年) |

県の人口規模が大きい場合や、交通が活発であれば、事故が多くなるのは当然で、比較のためには注意が必要です。そのためには、絶対数でなく、「単位当たり」の数を用いることがあり、イタルダ・インフォメーションでも「地域住民1人当たり、どれだけの志望事故の危険性があるのか?」を比較する意味で「人口当たりの死者」を紹介しています。
表2に、人口当たり死者及び負傷者の多い県、少ない県を示します。大都市を擁する県が人口当たりの死者数の少ないグループとなるようですが、「大都市」といった印象だけでは、傾向を明確に説明できないことがわかります。各々の県で人口当たりの危険性が異なること、また単なる印象での比較や分類が難しいことに注意しなければなりません。
そこで、図2の散布図によって人口10万人当たり死者数と負傷者数を同時に検討します。図から、近接県で類型の傾向があることがわかります(東北と北海道の"北日本"、静岡・群馬・茨城などの"首都圏周辺"、"愛知周辺"、"四国"など)。また、近接県ではない意外な地域と類似性をもつ可能性もあります。例えば、宮崎県は九州ではなく北日本グループと類似性をもっていると言えます。このような視点は、新たな地域比較の参考となるのではないでしょうか。

さらに、同じ指標による平成2年から8年の推移を図3に示します。全国平均の傾向では右下かた左上へ、つまり死者数が減少し負傷者数が増加しており、多くの県で同様の推移が見られます。特に、左下に位置する大都市(例えば、東京、神奈川、大阪)と、右上に位置する首都圏周辺の県(茨城、栃木など)で方向の異なる2つの大きな流れがあるようです。
その一方で、つぎのような若干の異なる推移の県も見られます。
また、「埼玉は大阪の傾向を追いつつある」「山梨は首都圏周辺グループから離れつつある」「福岡は他の大都市グループから離れ首都圏周辺グループの推移に近付いている」などの傾向がみられます。

次に年齢別の特徴を比較します。図4は負傷者の年齢構成率のグラフです。横軸が若者の構成率、縦軸が高齢者の構成率で、グラフの上に分布するほど高齢者の構成率が高く、右に分布するほど若者の構成の構成率が高いことを意味します。さらに、各点の大きさが子供の構成率の傾向を示します。
図から「鳥取、山形、香川などは高齢者が多い」、「京都、神奈川などは若者が多い」、「沖縄では子供が多い」などの基本的な傾向の他、「高齢者については同じ島根と香川だが、若者については香川が多い」「東京と埼玉は若者と高齢者では同じ傾向だが、子供については差が大きい」など読みとることができます。また、「石川、広島、群馬、岐阜は、ほぼ同じ傾向で連なって分布している」、「近接して分布する沖縄と宮城だが、子供の構成率で差異が大きい」等、(3)でみられた傾向とは異なる類似性がみられます。
図5は負傷者の状態別構成率の三角グラフです。やや複雑なグラフですが、三角の頂点に近付くほど自動車乗車中が、右底角に近付くほど二輪車乗車中が、左底角に近付くほど自転車歩行者が多い傾向を意味します。例えば、全国平均の構成率は「自動車59%、二輪車17%、自転車歩行者24%」で、三者を加えることにより100%となります。
図中で、東京、大阪、沖縄、香川はいずれも底辺近くに分布し、自動車が少なく自転車歩行者と二輪車が多い傾向で類似しています。逆に、頂点近くに分布する北海道、福井は、自動車が特に多い点で類似してます。多くの場合は、交通形態の類似する近接県で同一傾向ですが、「埼玉は隣接県と異なり佐賀と類似している」等の異なる傾向も見られます。
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「シートベルト着用率は地域の安全意識の高さ」を表していると言われることがあります。そこで、各県のシートベルト着用率(この場合は事故の第2当運転者の着用率)と人口当たり負傷者数の相関関係を図6に示します。相関は弱いけれども、「着用率が低い場合に負傷者数が多い」といった負の関係が見られます。図からも、低い着用率では負傷者数の低い範囲に分布がないことがわかります。

一般に、事故は発生地点を基本としてまとめますが、事故の当事者がその地域の住民であるとは限りません。場合によっては他地域からの流入交通が死亡事故を起こす場合もあります。表3は、死亡事故の第1当事者の居住地と発生地点の差異の大きい県について示しています。他県民が自県で起こす死亡事故と、自県民が他県で起こす死亡事故を比較した結果、相対的に後者の傾向が強い県は、愛知、香川、福岡、大阪、神奈川などで、逆に前者の傾向が強い県は山梨、福井、佐賀、滋賀、長野などです。免許更新の教育など、居住地における安全教育の機会に注意を喚起することが望まれます。
地域の事故の背景を探るためには社会的な特徴を考慮する必要があります。そこで、総務庁がまとめた自治体別社会生活指標データを分析に加えます。同データは「自然、人口、経済、教育、労働、住宅、医療、安全」等の数百種の情報を含む膨大なデータです。平成3〜5年データの県別死傷者数及び死亡重傷者比率(全死傷者にしめる死亡重傷者の割合)に関する個々の社会指標の分析の結果、表4に示す指標と相関が高い結果を得ました。3〜5年データの県別死傷者数及び死亡重傷者比率(全死傷者にしめる死亡重傷者の割合)に関する個々の社会指標の分析の結果、表4に示す指標と相関が高い結果を得ました。
死傷者数は県の規模の大小に関連する指標と相関が高く、特に若年人口が多い県では死傷者数が多いことがわかります。
また、死亡重傷者比率は人口集中地区面積など都市化を示す指標の他、道路安全施設や病院といった指標とも相関が高くなっています。
さらに、指標を総合的に分析した結果、県別死傷者数は、人口規模の要因(総人口データ)、産業活動の活発さ(製造品出荷額データ)、観光客の入り込み状況(旅館等施設数データ)、道路安全施設(横断歩道数データ、立体横断施設データ)を用いた以下の回帰式で表すことができます。
都道府県死傷者数(3年計)≒総人口 ×0.02 + 製造額出荷額 × 0.003 +旅館等施設数 × 3.9
−横断歩道数 × 1.1 −立体横断施設数 × 45.6 −1129.3

すなわち、式での符号が"+"となる人口が多く、産業活動が活発で、観光の入り込み多い県ほど死傷者数が多いことがわかります。また式での符号が"−"なる道路安全施設が多い県ほど死傷者数が少ないことがわかります。全県の計算結果を図7に示します。相関係数が高く、計算値と実際数が等しくなる斜線近傍に分布することからこの式の計算結果が実際の傾向をよく表していることがわかります。従って、「企業での安全対策」「道路安全施設の充実」等が死傷者数の低減に寄与するものと思われます。

平成8年3月末現在の人口別の市区町村数を表5に示します。「町」が全体の約6割を占め、人口1万人未満の自治体がほぼ半数を占めています。ここでは平成4年から8 年までの死者数(ただし高速道路を除く一般道路上での事故)によって市区町村を分析します。
表6に示す人口別5年間の合計死者数別の市区町村数をみると人口の多い市区町村では事故も多くなっています。
具体的には、横浜市(死者数:767人、人口:3,281,270人)の5年間合計死者数が最多で、次いで大阪市(761人、人口:2,482,923人)です。−lハ}。「5年間合計死者数0人の市区町村が169市区町村(全体の約5%)あり、その中でも人口が多い市区町村は大分県佐賀関町(人口14,700人)、大分県挾間町(人口13,565人)です。死者数が10人以下の自治体が全体の約4割を占めています。
さらに、「人口当たり5年間合計死者数」、「連続死者増減」、「平均増減率」、「連続死者なし」といった指標に特徴を持つ市区町村の一例を表7に示します。これらの指標は、地域の危険度、着実な減少のあった地域、大幅な増減のあった地域、総合的な事故レベル、といった視点で読むとることができます。





全国84自治体が3,000日以上死亡事故なし(全て人口1万人未満の町村)

「都道府県」、「市区町村」といった区分での地域別の事故分析結果を示しました。残念ながら全ての自治体の個別分析結果は限られた紙面におさまりきれませんが、代表的な分析結果と共に、分析の視点や表現方法を参考にして頂ければと思います。
自治体による危険度の格差を解消することは重要な課題であり、都道府県や市区町村はそのための総合的な交通安全対策を実行できる基本単位です。安全対策の方針とし「地域特性に応じたきめ細かい対策」が求められている現在では、事故分析においても地域特性に着目した分析がさらに必要となります。
ここで示した地域相互の比較によって、「他地域との事故形態や対策の情報を提供し合う」「複数地域で協同で対策を実施する」といった有機的な地域間の協力関係が進展し、また、効果的な安全対策を実施するためとその最終的な結果である事故防止のために役立てて頂ければ幸いです。