はじめに
「ベルト着用効果の軽視」に関する分析
「事故に遭う可能性が少ないという誤認識」に関する分析
「ベルトに対する誤解」に関する分析
おわりに
一方、シートベルトの着用の実態はどうなっているかと言うと、JAFによる着用率の調査(図2)では、平成5年には60%にも満たない状況であり、どちらかと言えばさらに着用率が下がっていく傾向にある。
では何故シートベルトを着用しないのか。総理府の世論調査(図3)によれば、
「近距離(短時間)運転が多いから。」
「面倒だから。」
「窮屈だから。」・・・など、様々な理由が並んでいる。しかし、これらの理由は本当に的を射た理由なのだろうか。
そこで今回、これらの理由を下に示すように大きく3項目に整理し、その各項目に対し、「実際に発生した事故ではどうなっているか」という観点から分析を行ったので報告する。



ベルトの着用効果を軽視していると思われる理由を挙げている人はかなり多いが、その効果はそれほど小さいのであろうか。
ここでは、シートベルトの効果をより正確に把握するため、「車両単独事故で、工作物に前面から衝突した車両の前席乗員」に限定して集計し、死者数、致死率*1(=死者数/死傷者数)と危険認知速度*2の関係を、 シートベルト着用有無で比較した図を示す。
まず死者数をシートベルト着用有無で比較すると(図4)、着用での死者が138人であるのに対し、非着用では907人と圧倒的に非着用での死者が多い。さらにこの数字を危険認知速度別に見ても、やはりすべての速度域で非着用での死者が多いが、ここで注目すべきことは、一般に「低速だから、大丈夫だろう」と思われがちな40km/h以下の速度域でも死者が発生しており、特に非着用での死者が多いことである。「40km/h程度ならシートベルトを着用しなくても大丈夫だろう」という事にはならないのである。
次に致死率のデータ(図5)を見ると、当然ながらベルト着用、非着用とも、危険認知速度が高くなると致死率も高くなるという傾向であるが、ポイントは次の2点である。
・どの速度域でも非着用の方が致死率が高い。
・速度が高くなるにつれてその差は大きくなる傾向がある。
つまり、シートベルトが人身に及ぶ被害を軽減する、または被害の増加を防ぐために大きな効果を発揮しているという事である。
この様に、実際の事故データから見てもシートベルトの効果は決して小さくはないのである。


次に「近距離運転が多いから」という理由でベルトを着用しない人もかなり多いが、では近距離運転なら事故は起きないのだろうか?
人身事故件数を通行形態別にみると、48.9%が地域内交通*3で発生している。(図6)
通行形態別死者数でも、死者のうち35.2%は地域内交通で占められ、負傷者でも40%以上を占めている。(図7)
さらに、地域内交通での死傷者を通行目的別に見ると、いわゆる「ちょっとそこまで」という感じの「飲食・買物等」が30%以上を占めている。(図8)
このように、実際に発生した事故をみると「近距離運転」での件数の割合がかなり大きく、また、死傷者数でもかなりの割合を占めていることから、「近距離運転だから事故を起こさない」とは言えないのである。
事故に遭う可能性がある以上、シートベルトの着用は不可欠ということである。
*3)地域内交通とは、出発地と目的地が同一市区町村内である通行形態をいう。



その中で「安全運転しているから事故は起こさない。シートベルトは必要ない」と考えている人もいるが、そうであろうか?
下の表は、車両相互事故(双方が自動車の場合に限定)の双方の運転者の傷害程度を示したものである。
この表でみると、第2当事者としての死者数は504人(うちベルト非着用303人)、重傷者では7,877人にものぼり、第2当事者を被害者側と考えると、いわゆる「もらい事故」による被害が決して少なくないことが分かる。
さらにまた「主にその事故に対する責任の割合が高い」とされる第1当事者が無傷でありながら第2当事者が被害を受けている事故の状況をみると、死者247人(うちベルト非着用143人)、重傷者5,874人、軽傷者223,592人にも及んでいる。
この様なデータからみても「自分は安全運転」をしていても、事故に遭遇して大きな被害を受けることは少なくなく、その時の防衛のためにもやはりシートベルトは着用すべきなのである。

第1当事者の人的原因構成率でベルト着用の有無別に集計を行ったのが図9である。ベルトにより運転が妨げられるのであれば、操作ミスの割合が大きいはずであるが、実際にはベルト着用時の方が操作ミスの割合が少ない傾向であることが分かる。
また、ベルトを着用すると、運転姿勢もよくなり、操作ミスが少なくなると言われている。
